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第40回木村伊兵衛写真賞に石川竜一さん、
川島小鳥さん

   第40回木村伊兵衛写真賞が石川竜一さんの『絶景のポリフォニー』『okinawan portraits 2010-2012』(赤々舎)と川島小鳥さんの『明星』(ナナロク舎)に決まり、4月27日に東京・丸の内の銀行倶楽部で行われた授賞式で朝日新聞出版の青木康晋社長から二人に賞状と賞牌、副賞の50万円が贈られた。
   同賞は、戦前、戦後を通じて日本の写真の発展に貢献した木村伊兵衛の業績をたたえ、1975年に創設された。対象はその年に優れた成果をあげた新人写真家で、約400人による写真関係者の推薦により推薦された候補者の中から、写真家の岩合光昭さん、瀬戸正人さん、鷹野隆大さん、長島有里枝さんとアサヒカメラ編集長の佐々木広人さんの5人の選考委員による第一次選考で8人が、二次選考で受賞者が決定した。

   石川さんは1984年沖縄県生まれ。沖縄国際大学社会文化学科卒業。2010年勇崎哲史さんに師事。12年『okinawan portraits』で第35回写真新世紀佳作受賞、15年日本写真協会賞新人賞受賞。
   受賞作は沖縄に生まれ育った石川さんが、地元の人々や日常の光景を撮影したドキュメンタリー。すごみを感じさせる表現を引き出す秘訣を聞くと「普通に気になったものに気になったと反応するだけです。かわいいと思ったらかわいいねと言えばいいし、怖いと思ったら怖いと言えばいい。実際には『こんにちは』『今何してたの』『どこに行くの』などと、普通に人と話す時と同じように声をかけます」とのこと。受賞に関しては「人と人とのつながりの中で、写真集を出すことができ、ここにいる。今後も写真を撮り続けられればいいと思っている」と語った。
   授賞式で選考委員を代表して講評した鷹野隆大さんは「初めて作品を見たのは2012年に写真新世紀で佳作をとった『okinawan portraits』。そこで見た沖縄の人の表情は傷つき、苛立ち、疲れていてショックを受けたが、その時は特別な人を集めて来たのだと解釈していた。昨年、沖縄の人々が政府に対して明らかに反旗を翻した時に、やはり沖縄の人は限界に来ていたのだということを思い、石川君の作品は、時代の予兆を的確にとらえていたと気付き、物を見通す力に改めて驚いた」と話した。

   川島小鳥さんは1980年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。沼田元氣さんに師事。2006年第10回新風舎平間至写真賞大賞受賞。11年『未来ちゃん』(ナナロク社)で第42回講談社出版文化賞写真賞受賞。
   受賞作は、台湾で3年にわたり少年少女の姿を撮った写真集。川島さんは「被写体に対して愛情と尊敬の気持ちをいつも忘れないでいる。3年間をかけて全力をつくした作品なので、すごい賞をいただけて嬉しい」と喜びを語った。
   鷹野さんは「一つ一つの写真は他者を肯定しようとする意識に貫かれ、この世に出現した善なる瞬間を丹念に記録している。人と人とに深く関わりながらムキになって撮っているという印象を持った。それは、日に日に暴力的になっていくこの国に対して、ムキになっていたのではないかと感じる。幸福な瞬間を写真に残すことで、今よりもっと素晴らしいものがあることを提示したのではないかと思う」と講評した。

   二人の受賞に関して鷹野さんは、「日本は震災のあった2011年前頃から少しずつ変化し、去年はついにこの国の基盤が崩れた年だったと思っている。政府が任意に判断できるような法律が整いつつあり、東京オリンピックが終わった頃には法整備が完了するだろう。その時、政府の言う、正しいこと以外は言ってはいけない国になっているかもしれないし、そういう空気がこの国を覆っているかもしれない。日本が揺らぎ始めた頃に撮り始め、ある形となって現れた昨年、それに呼応するように作品を発表したのではないかと感じている。今回受賞した二つの作品はこのような日本の状況に対して、彼らなりの答えを出そうとした結果だと認識している」と述べた。

   なお、受賞作品展が4月11日~20日まで、東京・新宿のコニカミノルタプラザで行われた。

執筆:西澤美子

写真キャプション

① 賞状を受ける石川竜一さん
② 賞状を受ける川島小鳥さん
③ 石川さん(左)と川島さん
④ 石川竜一『okinawan portraits 2010-2012』から ©Ryuichi Ishikawa
⑤ 川島小鳥『明星』から ©Kotori Kawashima


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