芸術広場|Office I Ikegami blog

17th DOMANI・明日展 未来を担う美術家たち 
文化庁芸術家在外研修の成果

「造形の密度と純度」をテーマに
国立新美術館で1月25日まで開催

   文化庁が若手芸術家を海外に派遣して支援する研修制度の成果発表として1998年から行っている「DOMANI・明日展」の17回展が、東京・六本木の国立新美術館で1月25日まで開催されている。
   今回のテーマは「造形の密度と純度」。繊細で密度の濃い作品で表現の純度を高めている12作家が紹介されている。「日本の現代美術のひとつの特徴といえる、工芸的なまでの緻密さや手技は、海外で高く評価されている。自分の手で作り、密度の濃い仕事をしている作家に焦点をあてることで日本の現代美術の今を見てほしい」(文化庁文化部芸術文化課・真住貴子氏)とのねらいがある。

●糸による究極の手技―岩崎貴宏
   手技による繊細な表現の代表格は岩崎貴宏(1975年広島県生まれ、2007年度イギリスで研修)だ。土台となっている雑巾の糸をほどいて神奈川県川崎市の臨海部にある工場を立体化した≪アウト・オブ・ディスオーダー(川崎シリーズ)≫と建物が水面に反射する様子を木造模型で再現する≪リフレクション・モデル(瑠璃)、(金閣)、(銀閣)≫を出品。特に前者は、昭和シェル石油基地、根本造船所、日清製粉ガントリークレーンなど、実際にある9つの工場に取材し、煙突やタンクなどを、糸を接着剤で固めて構築した。精巧な技が目を引く。
   着彩は墨。岩崎は室町時代の画僧、雪舟にひかれていることもあり、この作品を「水墨画」としても位置付けている。
   「戦後の焼け野原の白黒写真を数多く見てきたが、それらはまるで水墨画のようだった。たった数十年で街は復興し、高度経済成長を迎えて衰退。工業化の終焉をその煤汚れた工場群に見い出した。雪舟が観光地である天橋立を俯瞰で描いたように、工業地帯が観光地に移行している現在をとらえておこうと思った。科学の力で壊滅させられた国だが、その科学の力を使って私たちの幼少期にユートピアを実現させている。幼少期の書道の時間の墨汁まみれの雑巾は、ノスタルジックな思いを被らせていたように思う」と述べている。
   広島県出身の岩崎にとって、無機質な鉄骨の構造物は原爆ドームを想起させ、遺構について思いを巡らせるものだという。
   雪舟にひかれるのは「一貫して煤などの木のかすを材料に白黒で描いている」ことや「『天橋立図』のようにあり得ないくらい俯瞰で描いたり、代表作の『秋冬山水図』で、現実スケールの空間としては明らかに空間が破綻しているなど、従来の作家の視点とは違う」点にあるという。
   また、展示室の壁に貼られた岩崎のプロフィールが書かれた紙の上部がはがれているのかと思い目を向けると、そこには鉄塔の作品があった。
岩崎の作品は、気付かないように存在する、弱く、儚い物の中に宿る美と、目をこらさなければ見つけられないもの、忘れかけているもの、気付かないものがあることを、日常にあるものから示している。

   ●空から地上へ-関根直子
   紙と鉛筆で線の重なりや点の集積による繊細で独特の雰囲気を醸す作品を発表している関根直子(1977年東京都生まれ、2013年度フランスで研修)は、先史時代の壁画が残る洞窟を訪れるためにフランスで研修し、研修前、研修中、帰国後に描いた11点を出品した。
   昨年12月21日に行われたギャラリートーク・ツアーで関根は、「フランス南部に点在する先史時代の壁画が残る洞窟や洞穴を10カ所以上まわった。社会が形成される前に人間が作り始めた最初のものを見てみたかった。ずっとドローイングで表現してきたので、その原点を見たかった」と語った。「人が残した痕跡のみが当時の社会や意識を保存しており、それがその場所と寄り添って存在していることが純粋に視覚化されている場所に身を置くことで、自分が何に反応するのかということに関心があり、純粋にそういうものに触れておきたかった」という。
   展示会場のレイアウトも自ら行い、壁を斜めに立てたり、隙間を作り、「見る人が動かなければ見えなかったり、めぐるということで感じられる効果」を考えた。
   ≪言葉の前の音-人形遣いの声-1つの場所≫などの研修前の作品は、「タッチの集積で描いていて、自分で心地よい左右の動きをひたすら重ねていき、それによってできる黒白のまだらや、ぶれのようなものが重なっていく」などの、平面全体が鉛筆の線の重なりで覆われた明暗のある色面に近い作品が多かったが、研修後の作品は、描かれたものの形が鮮明になり、点や線が響き合うかのように変化していた。
   「これまでは俯瞰して見ていたが、地上に降りてきたような感覚で、視覚的に近いと感じる絵柄が表れてきた」という。「具体性が表れたのだと思う。タッチ自体がひとつひとつ意味のある明確なものになり、それによって構成し始めている。それまでは、自分の体の動きなどでタッチが変化していたが、もう一段階別のレベルに達した」と感じている。
   最近は「人間は脳で生きている」ということをテーマとし、追求し始めた。

●色彩が豊かになった銅版画のコラージュ-入江明日香
      一見すると筆と絵具で描いた日本画のようだが、実は銅版画のコラージュ。入江明日香(1980年東京都生まれ、2012年度フランスで研修)は、帰国後の個展で発表した六曲一隻屏風≪Le Petiti Cardinal≫や軸装の≪Un chat contemplant le mont fujil》など7点を出品した。12月21日のギャラリートーク・ツアーでは「雁皮紙という薄い和紙に刷った銅版画を絵具のようにして配置しながら完成させいく」と制作の過程を語った。大学では版画の基礎を学んだが、「もともと大きい絵を描きたかったので、そのためにはどうしたら良いか」を考えた結果、編み出した方法だ。
      研修先はパリ。かつてピカソやカンディンスキー、岡本太郎も制作した銅版画専門の工房アトリエ・コントルポアンで、一版多色刷技法を学んだ。「その工房で使っているヨーロッパでしか流通していない青の色がきれいで、帰国後も使い続けている」など、技法だけではなく、多くの収穫があったようだ。≪Le Petiti Cardinal≫は、パリで出会った子どもたちや滞在先のアパートから見えた風景、富士山や浮世絵風の人物などが透明感のある色彩で描かれている。洗練された線描は、「習字をしていた積み重ねが、髪の毛や目の描写に生かされているのかもしれない」と思っている。

   なお今回は、「保存・修復」の分野での研修発表も初めて実施され、北野珠子(陶磁器)、野村悠里(製本、装幀)、邉牟木尚美(金属文化財)の資料展示と座談会が行われた。
   出品作家はほかに、青木克世(陶芸)、紙川千亜妃(ドローイング)、小林俊哉(絵画)、梶浦聖子(彫刻[調金])、濱田富貴(銅版画)、和田淳(アニメーション)、奥谷太一(絵画[油彩])、北野謙(写真)、古武家賢太郎(現代美術)。

※芸術家在外研修は、文化庁が将来の芸術界を支える芸術家を支援するため、若手芸術家を海外に派遣し、専門とする分野で研修の機会を提供する制度で、1962年から実施され、美術部門での派遣者は1000人を超えている。研修期間は1年、2年、3年、80日など6種類ある。

執筆:西澤美子

【参考文献】
① 『17th DOMANI・明日展 未来を担う美術家たち 文化庁芸術家在外研修の成果
』展(図録)発行:文化庁、編集:アート・ベンチャー・オフィス・ショウ、2014年
② 服部浩之「彼方の浄土への扉を開く」国際芸術センター青森、2013年


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岩崎貴宏「アウト・オブ・デイスオーダー(日本ゼオン)」

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岩崎貴宏 壁際の作品

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関根直子「Untitled(14-192)

20150119_004
関根直子「言葉の前の音-人形遣いの声-1つの場所」(手前)2012年 

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関根直子ギャラリートーク・ツアー

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入江明日香≪醍醐枝垂桜≫(左)、≪Le Petiti Cardinal≫(右)

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入江明日香ギャラリートーク・ツアー

【会期・会場】2014年12月13日~2015年1月25日 国立新美術館
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
詳細:_http://domani-ten.com/_


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