January 12, 2026
去る2月2日、日本郵便から発行される普通切手12種類のデザインが新しくなった。1971年からデザインが変わらなかった3円切手のホトトギスはシマリスに、100円切手の銀鶴はサクラソウになった。1円の前島密の肖像だけは郵便の父として不動の地位を守ったが、これまで切手によってまちまちだった文字の配置や料金表示がすべて統一されたので、以前とは異なっている。
新デザインの統一テーマは「日本の自然」だという。
普通切手1枚1枚にもテーマやデザインが練られ、時代に合わせた改良を試みていることに改めて気付かされる。そうした切手の特徴を巧みに取り込んだ美術作品を開催中の3つの美術展から紹介する。
・切手と消印で辿る「奥の細道」-太田三郎(東京都現代美術館)
まず最初は、1987年から89年にかけて発行された「奥の細道シリーズ全10集」の切手を用いて、300年前に芭蕉が奥の細道で辿った足跡を日本地図に表した太田三郎の《奥の細道 1997》。東京都現代美術館で3月22日まで開催されている7作家によるグループ展「未見の星座(コンステレーション)-つながり/発見のプラクティス」で展示中だ。
太田は「切手」の作家として知られ、各地で拾った植物の種を封じ込めたり、太平洋戦争で行方不明になった兵士や中国残留日本人孤児の肖像を取り込んだ自作の切手、郵便切手や郵便局の消印を用いた作品を発表してきた。
《奥の細道 1997》は、旅のスタート地点である芭蕉庵の最寄り局であり、会場の東京都現代美術館にも近い「江東清澄郵便局」で出発の日を新暦に改めた5月16日の消印を押した切手を1枚目とし、終着点である岐阜県の「大垣船町郵便局」の10月20日消印の切手まで117枚、107の消印で構成した作品だ。切手の「奥の細道シリーズ全10集」は、俳句と絵が2枚1組になっている。切手に取り上げられた10句を詠んだ場所では、句と絵のペアの状態のままの切手に消印が押されているため、切手の数が10枚多いことになる。消印は芭蕉が句を詠んだというよりも滞在した地点を基準にし、切手は奥の細道シリーズ第1集の左位置の芭蕉の肖像を用いている。
制作は、郵便の「郵頼」制度を利用し、往復葉書の往信面に主旨や依頼文を書き、返信面に切手を貼って、芭蕉が滞在した地点の最寄り局に送り、芭蕉が滞在した日の消印を押して返信してもらう方法をとった。
「次々と送り届けられる押印済みの切手を見ていると、芭蕉が旅先から便りをくれているような気持ちになった」という。また、太田は山形県出身で、実家の前には、芭蕉が歩いたとされる道があり、昔から思い入れが強かった」と話す。山形の立石寺で詠んだ「閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声」は、句が切手に書いてある10種類のうちの1種なので、絵とペアの状態で7月14日の山寺郵便局の消印が押され、紹介されている。
芭蕉の旅を現代の生活に溶け込んでいる郵便局の消印で結んでいくことで、奥の細道の世界がリアルに迫ってくる。
ほかに、東日本大震災で被災した宮城県石巻市や、昨年豪雨による土砂災害が発生した広島県広島市安佐北区、広島の被爆樹、美術館に隣接する木場公園で採取した種子を加えた《Seed project》、本展開幕前日に制作した椿の葉に30円の椿の図柄の切手を貼り、江東清澄局の消印を押した作品に、今年開館20周年を迎えた東京都現代美術館がオープンした1995年の同種の作品を並べた《Postmarked Camellia Leaf》などを展観。
・尾形光琳の国宝2点が超絶技巧の切手に-髙田安規子・政子(MOA美術館)
江戸時代の絵師、尾形光琳の没後300年を記念して、二双の国宝の屏風《紅白梅図屏風》と《燕子花図屏風》が56年ぶりに一堂にそろった「光琳アート-光琳と現代美術」が2月4日から3月3日まで静岡県熱海市のMOA美術館で開催中だ。
光琳100年忌、200年忌の各展覧会に出品された光琳作品や、影響を受けた近現代の作品まで84点が出品されている展覧会の会場に入ると、最初にこの2点の国宝の屏風が対面するかたちで展示されている。その後、100年忌、200年忌のコーナーなどを経て、最後の現代アートの展示室の一番最後に展示されているのが髙田安規子・政子姉妹の《紅白梅図》と《レース(燕子花)》だ。
髙田姉妹は双生児ユニットとして、日常にあるありふれたものを細密な技巧で手を加えて、別の顔を持つ作品に昇華させる仕事をしてきた。今回は「国宝に指定されている2点の芸術作品が大量に印刷される切手となり、それを美術作品として美術館に戻すという価値の変換を試みた」。
《紅白梅図》は、1969年に発行された第1次国宝シリーズの切手のうち第7集の尾形光琳《白梅図》《紅梅図》から金地銀地の部分を切り抜いた。この屏風は数年前に、金地の部分に関して金箔か金泥かといった論争があったり、流水紋の銀を黒くする技法の判明などで社会的にも注目されたが、この切手作品には、一切の装飾を剥ぎ取り、梅の木と水の流れのみを見つめ、「その鋭く力強い筆跡や梅の枝のバランス、抽象的な波模様」(髙田姉妹)が浮かびあがったすがすがしい美しさがある。そして、それを導く超絶技巧に圧倒される。
髙田姉妹によるとデザインナイフで切り抜きをしているとのこと。ただ、これまで地図や雑誌を切り抜いた作品を制作する際には裸眼で作業してきたが、今回は切手1枚が3㎝四方というこれまでにない小さいサイズなので、医療用のレンズを使用したそうだ。シートの右下に1組の残された元の図柄と対比することで琳派の装飾の妙を改めて知るきっかけにもなる。
《レース(燕子花)》は、《燕子花図屏風》を部分的に使用し、1970年に2000万枚発行された日本万国博覧会記念切手を刺繡し、レース編みをした作品。切手の縁の形からレースのイメージが浮かんだのだという。針と糸による繊細な花の表現や縁どりの細やかさに目を奪われる。また、ヨーロッパでは中世から高価な品として扱われてきたレースを取り入れることで、価値の変換というテーマを別の視点からも追求している。
琳派は「風神雷神図」に代表されるように、時代を超えて模写をしたり、モチーフを引用する伝統があることから、「作業は違えども、模写する気持ちで制作した」という。
・海外の切手から生まれるコミュニケーション-森村誠(川崎市岡本太郎美術館)
執筆:西澤美子
【参考文献】
・『光琳ART 光琳と現代美術』内田篤呉監修、MOA美術館編
角川学芸出版 2014年
・「さくら日本切手カタログ2015」郵趣サービス社 2014年
写真キャプション
① 太田三郎《奥の細道 1997》 1997年
② 太田三郎《奥の細道 1997》(部分)1997年
撮影: 加藤健*
③ 髙田安規子・政子《紅白梅図》 切手 14.0×17.0㎝ 2014年 個人蔵*
④ 髙田安規子・政子《レース(燕子花)》 切手、和紙、絹糸
3.5×5.0㎝ 2014年 個人蔵*
⑤ 森村誠と作品《Airmailed Stamps(Promised Land)》2014年
⑥ 糸でつなぎ合わせた海外の使用済み切手。お国柄が見える
*以外は筆者撮影
※太田三郎作品
「未見の星座(コンステレーション)-つながり/発見のプラクティス」
1月24日(土)~3月22日(日)※月曜休館
東京都現代美術館(江東区三好)
☎03-5245-4111
詳細:http://www.mot-art-museum.jp/
※髙田安規子・政子作品
「光琳アート 光琳と現代美術」
2月4日(水)~3月3日(火)※会期中無休
MOA美術館(静岡県熱海市)
☎0557-84-2511
詳細:http://www.moaart.or.jp/
※森村誠作品
「第18回岡本太郎現代芸術賞展」
2月3日(火)~4月12日(日)
川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市)※月曜休館
☎044-900-9898
詳細:http://www.taromuseum.jp/