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花と鳥の万華鏡
―春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥―

画家たちの挑戦が生み出した、めくるめく花鳥の優美な世界。

   寒風のなか真直ぐに立つ水仙。やがて梅が紅白の花をつけ、鶯とメジロが集う。そして桜の季節を迎え、いよいよ春爛漫となる。花や鳥は、我々に自然の移ろいを知らせてくれる。東京の山種美術館で開催中の「花と鳥の万華鏡―春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥―」展は、伝統的な絵画から現代作家まで、山種美術館所蔵作品を中心に57点の、花と鳥をめぐる幅広い日本画を展観する。優れた内容で、華やいだ気持ちと充実感を味わった。
 
   ●花鳥画の系譜 伝統的な絵画の分野として花鳥画がある。花と鳥を主題とする東洋画を指すもので、昆虫も描かれたり、動物と花木を描く絵画も含む。吉祥を示すものも多く、長く親しまれてきた。中国で六朝時代に興り、唐時代から五代以降盛んになったとされる。日本では中国から中世に伝わり、桃山から江戸時代には豪華絢爛な大画面の金碧障壁画が多く描かれ、江戸中期からは博物学への関心から写生を重んじる傾向が強まった。そして明治時代以降、画家たちは西洋画に対する新しい日本画の表現を模索し、様々な試行を行ってきた。

   ●花と鳥の多彩な世界 展覧会場は、まさに「花と鳥の万華鏡」。花と鳥の種類も多く、その表現も多様だ。また、同じ対象を描いていても、違いが見えて面白い。

   例えば、花の王者である牡丹を見てみよう。渡辺省亭(1851~1918)による《牡丹に蝶図》(1893(明治26)年)は、初公開である。省亭は渡仏経験をもち、洒脱な花鳥画が海外でも高く評価された。豪華に咲き誇る牡丹と枯れて散りゆく牡丹、そして蝶が色彩鮮やかに描かれ、細部まで練られている。新しい日本画を模索した菱田春草(1874~1911)の《白牡丹》(1901(明治34)年頃)は、風に花弁を大きく翻し、一人の人間のようだ。左上部の大きな余白にごく小さな蝶が舞う。また、速水御舟(1894~1935)の《牡丹花(墨牡丹)》(1934(昭和9)年)は、実際にはない黒い牡丹だ。輪郭線を使わず、柔らかく重なる花弁を墨の濃淡で、葉を白緑と薄墨で表現し、滲みも見事。一作ごとに新境地を開いた御舟は、日本画の画材を知り尽くしていたといわれる。40歳で歿する前年の作品である。

   鳥では、孔雀を見てみると、岡本秋暉(1807~62)の《孔雀図》(19世紀・江戸時代)は、水流を挟んで立つ二羽の孔雀を金泥、群青、緑青の濃彩で緻密に描く。これは1731~33年に中国の清から来日し、江戸時代の花鳥画に大きな影響を及ぼした沈南蘋(しんなんぴん)(生歿年不詳)の画風にならったものだ。上村松篁(1902~2001)の《白孔雀》(1973(昭和48)年)は、横長の画面に真っ白な孔雀を真横から描き、ハイビスカスの花を周囲に配し、孔雀の颯爽たる佇まいと神聖さをくっきりと表現。写実をもとにした繊細で優美な世界だ。

   ●鳥の動きの表現 鳥の動く姿に着目した作品も多く出品され、躍動感の表現も鳥の生態も興味深い。竹内栖鳳(1864~1942)の作品群は、生き生きとしていて楽しい。鋭い観察に基づいている。早い筆勢で描かれた《みゝずく》(1933(昭和8)年)や《鴨雛》(1937(昭和12)年)はユーモラス。すべてに栖鳳の暖かい眼差しが感じられる。一方、小山硬(おやまかたし)(1934~)の《海鵜》(1980(昭和55)年)は、驚くべき白さの画面に多数の鵜が姿を見せ、啼き声が聞こえてくるようだ。単純化された表現のなかに野生の獰猛さが充溢する。

   また、17世紀・江戸時代に制作された作者不詳の《竹垣紅白梅椿図》(重要美術品)は、六曲一双の金地屏風。本展では最も古い作品だ。のびやかで絶妙な構成が光る逸品である。全面に弓状に曲げた竹垣が広がり、右隻に白梅と紅椿が、左隻には紅梅と白椿が組合わされる。そこに小鳥が所々に描かれ、「飛、啼、宿、食」の四態を表す。鳥のこの四つの動きは室町時代に中国から日本に伝わり、その後の鳥の表現に大きく影響を与えたといわれる。

   ●四季花鳥図 江戸琳派の鈴木其一(1796~1858)の《四季花鳥図》(19世紀・江戸時代)は、琳派が好んだ二曲一双屏風。豪華さと鋭さを併せもつ。金地背景に、右隻に向日葵、菜の花、蒲公英、朝顔など春と夏の花が、左隻には菊、吾亦紅、薄、女郎花、桔梗、撫子、萩、水仙など秋と冬の花が描かれ、鶏の親子と雌雄の鴛鴦が中央で向かい合う。全季節の吉祥を示す花鳥を織り込むことで、理想郷を表現している。四季花鳥図の系列では、岸連山(1804~59)や荒木十畝(1872~1944)らの華麗な作品も見ることができる。

   この他も見所が尽きない。速水御舟の《翠苔緑芝》(1928(昭和3)年)は琳派の構成を意識して制作され、独自の技術を駆使した傑作であり、《桃花》(1923(大正12)年)は小品ながら中国の南宋の院体画に影響を受けた高水準の作品だ。また、松林桂月(1876~1963)の《春雪》(19~20世紀(明治~昭和時代))も難しい表現をこなし、高い境地にある。雪の表現が秀逸である。

   本展を廻り、優美な花や鳥の姿や絵画の様々な在りように魅了されるとともに、それらを生み出した画家たちの限りない挑戦の数々を知り、強い感銘を受けた。また、花鳥を愛でる気持ちや文化が長く引き継がれてきたこと、今も不変であることを再認識させられた。 
   本展覧会を是非多くの方々にご覧いただきたく思います。


【参考文献】
1) 山下裕二 監修、山種美術館学芸部 編集、山下裕二・山﨑妙子・高橋美奈子・三戸信惠・櫛淵豊子 執筆:『山種美術館創立45周年特別展 ザ・ベスト・オブ・山種コレクション』、山種美術館 発行、2011年。

執筆:HOSOKAWA Fonte Idumi 
(2015年3月)

※会場内の風景画像は主催者側の許可を得て撮影したものです。

20150324_001
写真1 会場風景。作者不詳≪竹垣紅白梅椿図≫(重要美術品)、
17世紀(江戸時代)、山種美術館蔵。(撮影: I.HOSOKAWA)

20150324_002
写真2 会場風景。松林桂月≪春雪≫19~20世紀(明治~昭和時代)、
山種美術館蔵。(撮影: I. HOSOKAWA)


【会期・会場】
2015年2月11日~4月12日 山種美術館
<電話> 03-5777-8600 ハローダイヤル 
<詳細> http://www.yamatane-museum.jp/

※本文・図版とも無断引用を禁じます。


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