January 12, 2026
若林奮・日の出の庭の仕事を詳細に
「若林奮 飛葉と振動」展が神奈川県立近代美術館 葉山で8月15日から始まった。名古屋市美術館、足利市立美術館に次ぐ第3会場となる同展では、1975年に制作された≪地表面の耐久性について≫が約40年ぶりに収蔵庫から出され入口左手の屋外に設置されたり、野外彫刻をテーマとする葉山会場特別展示が行われるなど、特色を出した内容となっている。「芸術広場」でも近日中にレポート記事を掲載する予定だが、今回は、東京・神保町のgallery福果で開催中の「緑の森の一角獣座 1995‐2015 記録」(共催:gallery福果・一角獣座を緑の森に残す会)について紹介する。
前述の「若林奮 飛葉と振動」展では、若林が制作した「庭」に着目している。福果の展示は、その中の≪緑の森の一角獣座≫をより詳しく知る第2会場というイメージだ。
「記録集」刊行に連動して
≪緑の森の一角獣座≫は、東京都西多摩郡日の出町のごみ処分場建設に反対し、予定地内のトラスト地に若林が制作した庭で、2000年10月に東京都による強制収用で消滅してしまった。この庭を守るために1999年に「一角獣座を緑の森に残す会」(発起人・小泉晋弥、中里繪魯洲、河英実、水沢勉、西澤美子)が発足。FAX通信「UNICORN NEWS」の発行や庭の存続を求める署名活動、都の行政手続きに対する異議申し立て、若林が都を相手に起こした著作権裁判の支援などを行ってきた。また、庭の強制収用の危機が迫る頃に若林が「日の出の森の生命を持続させたい」との思いで≪緑の森の一角獣座≫の樹木の一部と周辺の木や石を日の出町の住民の敷地内に移し、新たな草木や石を加えて制作した≪新しい庭≫の継承を行ってきた。
残す会では、若林の日の出の庭と会の活動をまとめた記録集を8月に刊行。その記念展でもある。そのため展示構成も、記録集の中の年表「日の出・ごみ処分場/≪緑の森の一角獣座≫と若林奮をめぐる主な動き」を軸に、時系列で写真や資料、作品を紹介している。
写真は77点。≪緑の森の一角獣座≫のその時々の表情をとらえたものを中心とし、若林が庭の手入れをしたり、日比谷公会堂で行われた東京都収用委員会による公開審理で意見陳述する姿、毎月第4日曜に開催された庭の鑑賞会、庭の保存を求める署名活動、都による強制収用の現場、著作権裁判での記者会見、≪新しい庭≫の制作と手入れなどを紹介している。
資料は、庭の強制収用に対する若林直筆の抗議文、一角獣座の一部を構成していた鉄板、≪新しい庭≫構想図、「UNICORN NEWS」全33号など。
作品は、1996年にギャラリー21+葉で行われた「日の出の森を見た作家たち」展に出品された≪銅の葉≫、97年7月の第2回公開審理会場の日比谷公会堂の壁面を利用した日の出の森アートプロジェクト主催の「メールアート」展に出品した≪Copper Drawing Sunrise 1≫を後に50点制作してポストカードとして郵送したもの、一角獣座を題材にした≪新100線 No.79≫、マスクの形をした≪Copper Drawing Sunrise≫など7点。このうち、二つの≪Copper Drawing Sunrise≫には、日の出関連の作品に登場する仰向けになった奇形の犬が描かれている。
また、会場で上映されている動画は、残す会会員の濱田光一が撮影した一角獣座全景、都収用委員会視察、銅板の搬入、搬出、≪新しい庭≫制作など7本と、TOKYO MXテレビが庭について特集した2本。この2本は日の出のゴミ処分場の問題点や一角獣座制作の経緯、若林の現地でのインタビュー、作品解説などがそれぞれ10分程度でまとめられ、日の出の庭についての全体像を知る資料として貴重だ。いずれも記録集付録のDVDに収められている。DVDにはほかに、記者会見資料や活動記録、記録写真、新聞、雑誌などの関連記事、裁判記録などが収録されている。
また、記録集本編には若林奮による「東京都収用委員会 公開審理における陳述」、会の発起人の一人で茨城大学教授の小泉晋弥の作品論、元トラスト運動の運営委員でもあり、庭を実際に制作する際の中心的存在として若林から信頼の厚かった安藤隆による論文、作品画像、年表、関連文献一覧、都の強制収用に関する書面、≪新しい庭≫構想図、などを掲載している。
未来へつなぐ機会に
筆者は残す会の発起人の一人であり、今回の展示と記録集作成に関わってきた。そうした立場からの見解ではあるが、以下にまとめたい。
≪緑の森の一角獣座≫は森林を破壊し、有害物質を放出する構造のゴミ処分場建設に反対した人々によって確保されたトラスト地にあった。若林も地権者の一人だが、孤高の彫刻家というイメージが強い若林が、こうした住民運動にリンクする形で作品制作を展開したことに驚きや疑問を抱く人もいた。
今回ギャラリーに提示されている作品や資料からは、若林が時に悩み、揺れながらも、彫刻家として一生懸命に日の出の庭の制作に取り組んだことが読み取れるだろう。
また、若林が手掛けた庭のうち、≪軽井沢・高輪美術館の庭≫、≪神慈秀明会神苑の庭≫は施主に依頼され、制作費も支払われている。≪緑の森の一角獣座≫は制作費はないが、トラスト運動のメンバーで画家の田島征三らに「トラスト地に何かできないか」という形での依頼を受けて制作した。しかし、≪新しい庭≫は、若林が最初から自分で構想し、土地の提供の依頼や交渉をして制作した唯一の庭だろう。会場に展示したファイルには若林が日の出町在住の知人に土地の提供を依頼する文面と構想図を書いたFAXがあり、それを裏付けている。
「処分場の計画ができたことでトラストの土地があり、ゴミの問題や行政の問題など社会的に非常に大きな背景がこの庭の作品の裏側にある。世の中がいろいろな矛盾を抱え込んでしまったり、人間性の危機的な状況になった場合、それを反映するのが美術だ」と若林は前述のMXテレビのインタビューに答えている。また、そうした問題の持つ緊張感を≪新しい庭≫で伝えていきたいとも話す。
ゴミ処分場の問題、ひいては現代社会の抱える問題を美術を通して提起した若林の仕事を作品と記録でたどり、未来へつなぐ機会としたい。
執筆:西澤美子(文中・敬称略)
緑の森の一角獣座 1995‐2015 記録
8月3日(月)~29日(土)※日曜休廊
gallery福果(東京都千代田区神田神保町4‐11‐2F)
☎03-3259-6555
詳細:http://gallery-fukka.com/
写真キャプション
① gallery福果の展示風景
② 若林直筆の抗議文(中央)
③ 一角獣座を題材にした≪新100線 No.79≫(中央)。
左は一角獣座の一部を構成していた鉄板
④ 「若林奮≪緑の森の一角獣座≫記録集 1995‐2015」。
一角獣座のポストカードセット(6枚入り500円※若林奮メッセージ付き)購入者に贈呈
⑤ 8月3日の初日には田島征三さん(中央)も来廊