January 12, 2026
シェイクスピアの作品からインスパイアされた視覚芸術に出会える
「見つめて、シェイクスピア!~美しき装丁本と絵で見る愛の世界」展
が9 月28 日(日)から練馬区立美術館で開催されている。
サブタイトルの通り、展覧会はシェイクスピアをテーマにした、皮装
丁本と絵画作品・挿絵本展示のふたつが大きな柱になっていて、約
260 点の出品作品で構成されている。
装丁本は英国の製本装丁家協会「デザイナーズ・ブックバインダーズ」
主催の国際製本コンペティション(2013_テーマがシェイクスピア)
の入賞作品で世界中の装幀家による作品が勢揃いしている。
■装丁優秀賞作品はハンナ・ブラウン(イギリス)の「シェイクスピ
アの花園」。ヨーロッパではシェイクスピアの戯曲に登場する植物で造
られた庭を「シェイクスピアの花園」と呼ばれているそうで、アーツ
アンドクラフツ運動にも名を連ねたウォルター・クレインは絵本『シェ
イクスピアの花園』(『Flowers from Shakespeare’s Garden』(1906) の
復刻版/マール社)の中で、ローズマリー、三色スミレ、ヒナギク、
野バラなどを擬人化した美しいイラストで描いている。作者はこの本
を、深い夜を思わせる濃い青の空間と鮮やかな色彩を放つ花々のコン
トラストで幻想的な庭を表現している。
中には、従来の本の形や、皮素材からはみ出した装丁作品にも出会え、
装丁への概念を鮮やかに覆してくれる。
■ヤン&ヤメラ・ソボタ(チェコ共和国)の作品「装丁:本の彫刻」
はエリザベスカラー、独特の髪型とひげで、誰もがシェイクスピアと
認識できる上半身をモチーフにしていて、どこから見ても本の形では
ない。シェイクスピアその人そのものの姿をオブジェ化する事で、時
にロマンティックで美しいイメージの作品世界にとらわれ、つい薄れ
がちな、深い人間観察眼に優れ、心理描写に卓越した作家シェイクス
ピアの存在感を思い出させてくれる。
■日本人の入賞作品も何点かある中で、オックスフォード大学
学生賞の野村悠里の「シェイクスピア能、英語能ハムレット」
は和洋混合製本様式をとっていて、黒と草のゴート革、金箔、
黒漆の技法、和紙見返し、ケースはNOH(能)、HON(本)と
いう装飾が施されていて東西の製本文化を融合させている。
もう一つの柱、絵画・挿絵本コーナーでは、いくつかの章立てを
追って作品に出会える展示が施されている。
■序章では謎に包まれた16 枚のシェイクスピアの肖像画が迎えて
くれる。シェイクスピア本人を描いたものといえる肖像画は2 点し
かないという説もあり、肖像画の多くは本人を目の前に置いて、描
かれたかどうかも不明とされていて、私たちが知っている彼の顔が
果たして本物なのかは疑わしい事になる。むしろこの謎を逆手に
取って、イメージにあう、自分にとってのシェイクスピアを見つけ
るという楽しみ方もありそうだ。
100 点近い挿絵作品のコーナーは、戯曲、悲劇、喜劇、史劇等の
要素で構成されている。
■四大悲劇「ハムレット」、「オセロー」、「リア王」、「マクベス」の
コーナーでは、ドラクロワやテオドール・シャセリオーなどの絵画・
版画の作品で構成されている。ウジェーヌ・ドラクロワのリトグラ
フの連作のうち「オフィーリアの死」(『ハムレット』1843 年)は、
狂気を装った恋人のハムレット王子と自らの父の死という不幸のた
め自らも正気を失い、川で溺死をするオフィーリアを描いたおなじ
みの場面。作品はかろうじて木の枝につかまっているが、生気を失
い、死の影が濃いオフィーリアの姿を細密なタッチで表現されてい
る。悲劇のヒロインにあるべき美しさ、はかなさからはかけ離れた
ドラクロワ版オフィーリアには、妙な現実味を感じ興味深い。
■重厚で古典的な挿絵作品のなか進んで行くと、突然、トンネルを抜け
た様に、愛の画家・シャガールの「テンペスト」の版画の連作が、マシュ
マロのような柔らかさで肩の力をぬいてくれる。
繊細な手法と物語性あふれるアーサー・ラッカムの挿絵本「テンペスト」
と比較してみられるのも楽しみだ。
戯曲作品のキャプションにはあらすじが添えられていて、挿絵と
文字の両方でシェイクスピア作品を味わえる。
■絵画作品では、ジョン・シモンズの「真夏の夜の夢…… パックや
妖精たちに囲まれたハーミア」(1861 年/水彩)が、光と影のコン
トラストで幻想的な世界を放っていた。ハーミアは物語に登場する
アテネの乙女で、恋人との結婚を父親に反対され駆け落ちをした森
の中でさまよう様子が、シモンズの透明感のある鮮やかな色彩で描
かれている。妖精に見守られ、官能的な立ちポーズを堂々ととる姿
からは、恋に悩む乙女の初々しさよりも、愛を絶対ものと疑わない
女性の逞しさを感じてしまう。それにしても、この水彩画とは思え
ない色彩の透明感は、CG 作品ではないかと見いってしまう。
どうして展覧会タイトルに「見つめて」がついてるのか…きっと
サラっと見るだけじゃなく、「どこに、シェイクスピアの香りが?」
「あ!あの物語の色だ!」「こんなシィクスピアの形も!?」などど
展示作品から想像して、感じて、物語を楽しめる展覧会なのかもと
ツラツラと考えていたら、展覧会チラシにもじっくり「見つめて」
くださいというコメントが…
見つめて、感じて…ちょっとアートな秋のひとときを、どうぞ…
展覧会は11 月30 日まで。 その後、滋賀県立美術館で巡回予定
(2015 年2 月7 日~ 4 月5 日)