January 12, 2026

先日、町田市立国際版画美術館で開催中の
「駒井哲郎 1920 - 1976 ―こころの造形物語―」展に行ってきました。
戦後日本で銅版画のパイオニアとして活躍した駒井哲郎。同展は資生堂名誉会長の福原義春氏が収集した初期から晩年に至る約500点のコレクションを通して、駒井の創造の軌跡をたどる内容です。
――― 夢と現実、すべてが私にとっては夢でもあり現実でもあるのだ ―――
サンパウロ・ビエンナーレ受賞作であり代表作としても有名な『束の間の幻影』。駒井の解説では「ふとした瞬間、人の心を通り過ぎるなんとも云えない解放感を銅版画として視覚化して見たかったのです」とあります。

“見えるものを描いて、見えない心の内を表現することを追い求めた”――という駒井ですが、豊かな感性と確かな技術で、見えない心の中を作品へと昇華させることのできる稀有な作家だったのだと、今回の展示を観てあらためて感じることができました。
特筆すべきは、駒井の色彩に対する感性の豊かさ。「白と黒の詩人」とも評される通り、白と黒のみの表現にもかかわらず深い色彩を感じさせるモノクロ作品はもちろんのこと、ポスターにも採用されている『黄色い家』など、モノタイプを中心としたカラー作品も印象深く、見ごたえのあるものでした。
詩人たちとの交流、長谷川潔、恩地孝四郎らとの関係、ルドンやクレーなどからの影響………。多くの出会いを経て、駒井だけの独自の世界と、その多彩な才能が開花していったことがわかります。銅版画による表現の可能性を切り拓き、時に文学的とも感じられる駒井作品。会場ではその理由が裏付けられるような、駒井による挿画原画や詩画集など数多くのブックワークも観ることができます。
駒井の多彩な才能に驚かされると同時に、多岐にわたる作品世界でありながら、その人となりや全体像をも感じさせるような系統だったコレクションからは、福原氏の”コレクターとしての確かな眼”も感じさせる充実した内容でした。

同展は、15歳当時に制作した初期作品から1950年代までの作品を展示する第1部と、ルドンやクレーを解釈しながら独自の表現を生み出した1960年代の作品を経て、病に侵され絶筆となった作品までを展示する第2部とに分けられ、全作品が全て入れ替えられる展示構成となっています。図録も美しく、観返すことで駒井の創造の軌跡をたどることができる構成ですが、2期を通して駒井の息づかいを感じながら作品を観ることで、彼が生涯追い求めた創造の秘密をより深く感じることができそうです。
常設展示では、「西洋版画の世界―駒井哲郎の視点」(4月6日~6月12日)も同時開催。デューラーやブリューゲル、レンブラント、ゴヤ、ピカソなどヨーロッパの古い版画から20世紀の作品まで、駒井が深い関心をよせ、その著書などで取り上げた欧米の作家を中心に約40点を展示しています。
幾度か目にしてきた作品もあれば初めて観る作品もありましたが、筆者自身、これだけ多くの駒井作品をまとめて観たのは今回が初めて。作品ひとつひとつに対峙していくと、現実と非現実が織りなすような展示空間の中で、自身のこころの中に深く入り込んでしまうような感覚を覚えました。駒井が創造した幾つもの「こころの物語」には、見る人自身の「こころの物語」を呼び起こさせる強さがあるからなのかもしれません。
(M・H)
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駒井哲郎 1920 - 1976 ―こころの造形物語―
2011年4月9日(土)~6月12日(日)
(第I部 4月9日~5月8日)/(第II部 5月11日~6月12日)
※第I部、第II部で全ての作品を入れ替え
月曜日、5月10日(火)は展示替えのため閉室
火~金:午前10時~午後5時(入場は午後4時30分まで)
土・日・祝日:午前10時~午後5時30分(入場は午後5時まで)
※今後、計画停電等の状況により、開館日、開館時間等が変更される場合があります。
最新の情報につきましては、町田市立国際版画美術館のホームページまたは電話にて
ご確認ください。
町田市立国際版画美術館
〒194-0013 東京都町田市原町田4-28-1
電話番号 042-726-2771
http://hanga-museum.jp/
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同展は、以下の会場に巡回予定です。
・山口県立萩美術館・浦上記念館 2011年7月5日(火)~8月7日(日)
・伊丹市立美術館 2011年10月29日(土)~12月18日(日)
・郡山市立美術館 2012年1月5日(木)~2月12日(日)
・新潟市美術館 2012年2月18日(土)~4月15日(日)
・世田谷美術館 2012年4月28日(土)~7月1日(日)
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