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六本木アートナイト2015 レポート

街なか作品と立川行き無料シャトルバスにチャレンジ

   東京・六本木の街を舞台とする一夜限りのアートのイベント「六本木アートナイト2015」が、4月25日(土)から26日(日)の日没から日の出までの時間帯をコアタイムとして開催された。2009年から毎年春に開かれてきたこのイベントは、東日本大震災が起きた2011年には中止となったが、今年で6回を数える。
   筆者は毎年、日没の18時30分頃からのオープニングセレモニーを見てスタートし、終電に間に合う時間まで、六本木ヒルズ、東京ミッドタウン、国立新美術館のエリア内で、美術館を中心に周辺の展示を見るといったパターンで参加してきたが、今年は「立川行きの無料シャトルバスで帰る」ことをマイ・メーン・テーマに掲げ、さらに、街なか作品にチャレンジしようと乗り込んだ。

・キックオフセレモニーでスタート

   25日の日没18時22分に合わせて開かれた「コアタイムキックオフセレモニー」では、
2013年から3年連続でアーティスティックディレクターを務める日比野克彦氏をはじめ、
参加作家が六本木ヒルズアリーナに結集。当日の新聞の訃報欄に日比野氏の父の彰男氏が亡くなり、26日19時から岐阜で通夜とあったので、心配していたが、笑顔で登場し、今年新設されたメディアアートディレクターの齋藤精一氏の名前を元気よくコール。齋藤氏が自らが主導して制作したLEDで光る大型トラック《アケボノ号》から登場し、会場をわかせた。日比野氏は、「六本木の街でアートを満喫したい」と語り、会場に集まった人々に呼び掛けて、今回のテーマ「ひかルつながルさんかすル ハルはアケボノ」を大きな声で唱和、アートナイトをスタートさせた。

・4時間半で約30作品を鑑賞

   セレモニー終了後は、無料で配られているガイドブックを片手に作品巡りを開始。最初に、アリーナ裏手の毛利庭園の池に作られたチームラボの《願いのクリスタル花火》へ。スマートフォンで好きな花火を選んで、その後、画面上の短冊に願いを書いて投げ込むと、花火とともに願いが白い光となって打ち上がるという参加型作品だ。スマホ初心者で操作がわからず、人々の上げる花火にただただ見入っていたが、光と色の繊細な表情が夜空と水面に写し出され、洗練された都会の夜を過ごせた気分になった。
   アリーナに戻り、アケボノ号の上で始まったライブを横目にけやき坂へ。帰りの立川行きのバス停をチェックしながら坂を下りていくと、ボードを持った人に声をかけられた。壁に書いてある「3.11が■■ている」の黒い四角の部分に言葉を入れてほしいとのこと。ここは宮島達男の作品で、いくつかの数字が異なるスピードでカウントダウンを続ける《カウンター・ヴォイド》があった場所。東日本大震災後の3月13日から光が消されていた。しかし、記憶が風化していく現状に危機感を感じ、社会に問い続ける装置として生まれ変わらせようとする「リライトプロジェクト」のキックオフプログラムとして活動を始め、皆から言葉を集めているという。ボードには3.11を忘れないという思いを書いた。

   横断歩道を渡って六本木駅方面への道に進むと、右手のあじさいパーキングの縦長の壁に石田尚志の《色の波の絵巻》が映し出されていた。横浜美術館で開催中の石田の個展会場にも同じタイトルの作品があったが、色の波がすべり落ちるような迫力が増し、暗闇に映えて目をひいた。
   その斜め向かいには、ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニの東京を舞台にした映像作品《TME-Tokyo Metropolitan Expressway》がPatata六本木の3階のベランダの壁に投影されていた。

   芋洗い坂を登り、途中のヒロミヨシイ六本木の「前田圭介展」を見て、第一レ―ヌビルに。曽根光揮の《写場》とウー・ジーツォンの《WireⅠ》《Crystal City 002》が展示されていた。《写場》は10人ほどの列ができていて、ようやく中に入ると、スクリーンの前に写真スタジオ風の椅子があり、そこに座ると写真館の店主と思しき男性がカメラを向けて「最近、お痩せになりませんか」などと言いながら、シャッターを押す映像が映し出される。さらに「よく撮れましたよ」などの言葉とともに、座っている自分が撮影された紙焼き写真が画面に表れる作品で、「えー!」「どうして…」。驚きの声はそこここで上がっていた。未だに不思議だ。

   近くにある六本木ロアビルの外階段周辺にはオランダのアーティストTim van Cromvoirtの《Lungplant》が。かぼちゃのような立体が呼吸をするかのように膨らんだりしぼんだりしながら柔らかい光を放っていた。
   六本木交差点に進むといつもある時計塔がカラフルな絵で覆われていた。時計の部分を顔にして春の神が描かれた絵で、横に顔はめ写真で天使になれるボードもあり、人が集まっていた。小橋陽介+Colliuの《小橋とColliuの顔はめ派時計》という作品だった。駅から出て来る人や待ち合わせをする人にアートナイトのスタッフがガイドブックを配ったり、顔はめで記念撮影する人々もいて街中で盛り上がってきた実感がわく。

   信号を渡り、東京ミッドタウン方面へ。途中の絨毯屋PARSのショーウィンドーに山岡潤一《Morphing Cube》があった。ゴムでできているという立方体の形が瞬時に変化したり、浮遊する様子が生き物のようで、多くの人が足をとめて見入っていた。
   ミッドタウンに着くと、外苑東通りに面した広場の青く光るゴジラの前に人が集まり、写真におさめていた。中庭には、光る大型のアートトラック「ハル号」やフォトサークルなどの参加型作品があり、賑わっていたが、まずは地下のイートインコーナーで食事。その後ミッドタウン内で展開しているストリートミュージアムやフラワーアートアワードの作品などをいくつか見て、国立新美術館方面へ。途中の店の前に設置されたスイッチ総研の《六本木アートナイトスイッチ》などを見ながら、美術館横の政策研究大学院大学の敷地内の東恩納裕一の《キャンディ》に。巨大な銀色のキャンディの包みがライトの光を受けながら回転し、上空の月と新美術館のガラスからの光と調和しながら六本木の夜に輝いていた。

   その後、再び六本木ヒルズに向かった。帰りの立川行きのシャトルバスに乗るには、ヒルズのけやき坂バス停に乗車希望の1時間前に行き、整理券をもらわなければならない。23時発のバスに乗るために22時にけやき坂に行くにはそのルートを取り、ヒルズ周辺の作品を時間までできるだけたくさん見よう考えた。
   六本木通りを渡るために、地下通路を進むと、フィリピンの作家ポクロン・アナディンの《カウンター・アクトⅡ》が壁沿いに約10点展示されていた。人々が顔の前に鏡を持って太陽の光を反射させるシリーズの、新作の東京バージョンだった。

   通路を抜けて、ヒルズ2階の屋外広場に出た。太陽電池で光る花による《リトル・サン・ガーデン》や、「ハルはアケボノカフェ」のライブペインティングを見て、森美術館の「シンプルなかたち展」へ行く。この展覧会は、前日の昼間に見ていたが、窓から外が見渡せる部屋に展示され、柔らかい布が風で浮遊する大巻伸嗣の《リミナル・エアー  スペース‐タイム 2015》が、夜にはどんな表情を見せるのか、確かめてみたかった。特別な照明はなく、ビルや街灯などの街からのわずかな光と静けさを包みこむように人知れず浮遊する布の動きや影が、夢の世界に誘うかのようだった。

   ・立川行き無料シャトルバスで帰宅

   22時近くなったので、けやき坂のバス停周辺へ。整理券をどこで配っているのかわからず不安になったが、周辺にいた人に聞き、近くに係の人がいることがわかり、券をもらって建物に引き返した。バス発車までの1時間で、ヒルズ館内に展示されているカールステン・ニコライの自動販売機をテーマにし、実際の自動販売機が見える場所に投影した映像作品《future past perfect pt.03》や、40メートルの高さの天井から7色の布を吊るし、1987年にエッフェル塔で展示した虹の滝を再現した靉嘔の《300mのレインボー》、大山エンリコイサムのライブ・ペインティング・パフォーマンスなどを見た。また、入口から入って両側に並んだ30人と握手をして進むパフォーマンス、アローラ+カルサディーラの《気性とオオカミ》を体験し、4階のコンビニで飲み物を買ってバスへ。

   すでに乗車が始まっていたが、窓側に座ることができた。普通の観光バスで、二人連れは並んで座り、一人で乗車した人は二人がけに一人で座っていっぱいになるくらいの乗車数。23時に発車し、5分後に六本木駅前、さらに5分後に東京ミッドタウン前に停車したが、乗車はなく、吉祥寺駅、国分寺駅、立川駅に向けて出発。吉祥寺駅に0時頃、国分寺駅は南口のロータリーに0時20分頃到着した。筆者はここで降り、バスはその後立川方面に走って行った。


 
   けやき坂のバス停からは、渋谷行き、新宿経由池袋行き、上野行き、品川行き、立川行きなど各ターミナルへの無料シャトルバスが土曜の23時から日曜の朝5時代まで運行されていた。渋谷行きなどは15分から20分間隔で自由に乗車できるが、立川行きは23時から翌朝5時15分までの75分間隔で、整理券が必要。いずれのバスも、各ターミナルから六本木までの運行もある。
   ただ、けやき坂のバス停には、シャトルバスが留まるという表示がなく、立川行きの整理券の配布がどこでどのように行われるのかがわかりにくく不安になった。実際、キックオフセレモニーの前に確認に行ったが、スタッフに聞いてもわからない状態だった。また、六本木駅前とミッドタウン前のバス停がどこなのか、展示を見ながら捜してみたが、わからず、乗り遅れないためにはけやき坂からの乗車が安全だと判断したことも、再度ヒルズに戻った理由のひとつだ。
 
   バスにはアートナイトの看板も付けられ、添乗員さんもいて、いわゆる「やる気」が感じられたが、電車のない深夜にも安全に利用できるせっかくの企画がもっと生かせるよう、バス停周辺にバス専門のガイドを置いたり、案内板を増やすなどして、より利用しやすくすると良いだろう。
 
   越後妻有や瀬戸内、愛知のトリエンナーレなどで、古い建物を利用した作品に触れてきたが、六本木でも、作品がなければ一生行かないようなビルに入って体感できたことは大きな収穫だった。一夜限りのアートの醍醐味は、街なかにこそあるようだ。

執筆:西澤美子

写真キャプション
① コアタイムキックオフセレモニー。六本木ヒルズアリーナに参加作家が集合
② チームラボ《願いのクリスタル花火》
③ けやき坂の「リライトプロジェクト」
④ 石田尚志《色の波の絵巻》
⑤ ニナ・フィッシャー&マロアン・エル・サニ《TME-Tokyo Metropolitan Expressway》
⑥ 曽根光揮《写場》
⑦ 鑑賞者が映像の写真に写り込んでいる
⑧ ロアビルに展示されたTim van Cromvoirt《Lungplant》
⑨ 六本木交差点の小橋陽介+Colliu《小橋とColliuの顔はめ派時計》
⑩ 絨毯屋 六本木PARSのショーウィンドーに展示した山岡潤一《Morphing Cube》
⑪ 東恩納裕一《キャンディ》。後ろは国立新美術館
⑫ 六本木通り地下通路のポクロン・アナディンの新作《カウンター・アクトⅡ》
⑬ 大巻伸嗣《リミナル・エアー  スペース‐タイム 2015》
⑭ カールステン・ニコライ《future past perfect pt.03》。上部の映像が作品。下は実際の自動販売機コーナー
⑮ 靉嘔《300mのレインボー》
⑯ 立川行きの無料シャトルバス。国分寺駅前に到着。

「六本木アートナイト2015」
4月25日(土)~4月26日(日)
コアタイム18時22分[日没]~4時56分[日の出]
詳細 http://www.roppongiartnight.com/2015/


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