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第6回 日経日本画大賞に岩田壮平さん

選考委員特別賞にマツダジュンイチさん、谷保玲奈さん

   「第6回 東山魁夷記念 日経日本画大賞」の授賞式が5月27日、東京の上野の森美術館で行われ、岩田壮平さんの《雪月花時億君-花泥棒》が大賞を、マツダジュンイチさんの《刻》と谷保玲奈さんの《繰り返される呼吸》が選考委員特別賞を受賞した。
   日本画家の故東山魁夷の業績をたたえ、21世紀を担う日本画家の発掘を目指し、2002年に設立された同賞は、受賞時に55歳以下の日本画を描く作家が対象。前回から3年に一度の開催となり、今回は2011年12月1日から14年11月30日までに発表された作品の中から、全国の美術館学芸員、大学教授、評論家ら約50人の推薦委員が推薦した48作家の51作品を、大原美術館の高階秀爾館長を委員長とし、美術評論家の島田康寛さん、平塚市美術館の草薙奈津子館長、茨城県近代美術館の尾﨑正明館長、山口大学の菊屋吉生教授、東京都現代美術館の加藤弘子企画係長の6人の選考委員による第1次選考で30点を入選に、その中から最終選考が行われ、受賞者が決まった。大賞の賞金は500万円。

   岩田壮平さんは1978年愛知県生まれ。2002年金沢美術工芸大学大学院修了。1981年から華道池坊に入門し、日本画への道に進む95年まで生け花に携わった。01年から毎年、日展に出品し、05年、10年特選に。現在、委嘱。08年菅楯彦大賞展大賞受賞。日経日本画大賞は08年の第4回、12年の第5回で入選。鮮烈な色彩と装飾性の高い大胆な構図の作品で知られる。  
   受賞作は06年からテーマとしてきた花泥棒シリーズの最新作で、昨年9月の日本橋髙島屋(以降、横浜、名古屋など5会場巡回)での個展に出品された横10メートルの大作。岩田さんは「3つの頃から生け花をはじめ、大学に進んで日本画に転向した後も、花の中に流れる命を表現したいと思ってきた。たらし込みの技法を用いて、血や命を注ぐように絵の具を流し込み、自然の力や重力が作用して発色し、花の中に命を巡らせ、自分が生きている今を表現できれば」と述べた。受賞は「今まで自分がしてきたことが認められ、これからも好きな絵を描いて行っていいのだと後押しされたようで有難い」と喜びを語った。
   高階秀爾さんは「伝統的な技法を駆使しながら、花をクローズアップして近接視点で迫力のある大画面を作り出した。伝統を踏まえた上で、花に対する思い入れを新しい形で表現している」と高く評価した。また、尾﨑正明さんは、「今回は3回目の入選だが、これまで着実に積み上げてきた実績が大きく花開いた感じがする。大画面にもかかわらず、画面構成は緊密で緩みがない。金地に鮮やかな色彩で写実的に描かれた画面は華やかで、遠く琳派の装飾的世界へとつながるものを持っており、大賞に相応しい」と審査の講評で記している。

   最後まで大賞候補に残り、選考委員特別賞を受賞したマツダジュンイチさんは、1965年京都府生まれ。89年京都精華大学卒業。2009年「現代の水墨画2009 水墨表現の現在地点」(富山県水墨美術館、練馬区立美術館)に出品。10年「第8回雪舟の里総社 墨彩画展」入選。
   マツダさんの受賞作は、昨年4月、京都市美術館で開かれた「第20回日本画 尖展」の出品作。意識しないことを意識するようにひたすら鉛筆で線を描き、消しゴムを線を引くように入れて消し、墨を混ぜて流し込み、鉱物の結晶のような像が現れた縦3.6m、横4.5mの大作。
   マツダさんは「これまでは横に横にという感じで描いていたが、この作品では上に上にと登っていくように描き、隆起するようなエネルギーを表現した。枠にとどまらずに描いているのでこれからもマイペースで制作していきたい」と語った。
   高階さんは「全体として非常にダイナミックでありながら、静謐で、幅の広い新しい感覚を広げてくれる。丹念な手仕事を重ねることで構築的世界を実現した」と述べ、菊屋吉生さんは「屹立する巨大な崖と見まがう広大な作品にもかかわらず、その構成には全く破たんがない」と評した。

   谷保玲奈さんは1986年東京都生まれ。2012年多摩美術大学大学院修了。2010年佐藤太清公募美術展特選賞受賞、12年第5回日経日本画大賞入選、14年五島記念文化賞美術新人賞受賞。受賞作は、昨年の大原美術館でのアーティストインレジデンスARKOで制作した。
   高階さんは「生命の根源的な力を抜群の色彩感覚で表現している」と評価した。なお、谷保さんは所要で授賞式は欠席した。

   入選作では、鉛筆の線と墨を重ねて夜の水面を描き出し、闇と一体化するような感覚に陥る梶岡俊幸の《夜居》、自宅にある梅の古木をモチーフに墨の点と線で描き、光や深みを感じさせる浅見貴子の《梅1101》など、墨や鉛筆を用いて真摯に対象を見つめた作品に存在感があった。
   入選作家はほかに、蒼野甘夏、淺井裕介、荒井経、安藤陽子、岩永てるみ、及川聡子、川島優、木下めいこ、神彌佐子、清野圭一、高橋ゆり、高村総二郎、武田州左、武山剛士、田中武、田中望、程塚敏明、堀江栞、町田久美、松井冬子、丸山勉、南聡、村山春菜、山本太郎、涼。
   受賞作を含む入選作30点による「第6回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展」が6月7日まで上野の森美術館で開かれている。

執筆:西澤美子

第6回 東山魁夷記念 日経日本画大賞展
5月28日(木)~6月7日(日)※会期中無休
上野の森美術館(東京都台東区上野公園1-2)
☎03-3833-4191
http://www.ueno-mori.org/

写真キャプション
① 岩田壮平さんと大賞受賞作の《雪月花時億君-花泥棒》
② 岡田直敏日本経済新聞社社長から賞状を受ける岩田壮平さん
③ マツダジュンイチさんと選考委員特別賞の《刻》
④ 高階秀爾選考委員長から賞状を受けるマツダさん
⑤ 谷保玲奈さんの選考委員特別賞受賞作《繰り返される呼吸》
⑥ 梶岡俊幸《夜居》
⑦ 浅見貴子《梅1101》


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