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第19回 岡本太郎現代芸術賞展 
岡本太郎賞に三宅感の巨大壁画

  第19回岡本太郎現代芸術賞の受賞者が決まり、大賞の岡本太郎賞(賞金200万円)に三宅感の《青空があるでしょう》が、岡本敏子賞(賞金100万円)に折原智江の《ミス煎餅》、特別賞(賞金50万円)に笹岡由梨子の《Atem》(えーてむ)が選ばれた。
  岡本太郎現代芸術賞は、美術家の岡本太郎の精神を受け継ぎ、自由な視点と発想で、現代社会に鋭いメッセージを突きつける作家を顕彰するため1997年に設立された。
  今回は、485点の応募があり、美術批評家で多摩美術大学教授の椹木野衣、空間メディアプロデューサーで岡本太郎記念館館長の平野暁臣、川崎市岡本太郎美術館館長の北條秀衛、美術史家で明治学院大学教授の山下裕二、ワタリウム美術館キュレーターの和多利浩一による審査の結果、23点が入選、その中から受賞作3点が決まった。

・岡本太郎賞に三宅感《青空があるでしょう》
  岡本太郎賞を受賞した三宅感は1983年群馬県生まれ。2006年に多摩美術大学美術学部彫刻学科を卒業。受賞作《青空があるでしょう》は、「どんなに生活や人生が苦しくても青空はみんなに平等にある」という思いをタイトルに込めた。「私の人生」をテーマとし、その途上で表れる夢、母体、子供心、自我、生活、仕事、誕生と死をキーワードとする7つのパートで構成されている。素材として主に紙粘土や発砲スチロールを用いた高さ5mの壁画だ。
  三宅は受賞作について、「3年ほど前に障害者の施設の介助員と在宅ヘルパーの仕事を始めた。同じ頃子供が生まれ、奥さんのお父さんが亡くなった。3者から受ける強いパワーを感じ、お前はどう生きるのかと問いかけをされたような気持ちになり、それを何とか表現したいと思い、制作に取り組んだ」と話す。仕事の都合で、制作は主に土、日に限られているため、完成までに3年かかったという。
  審査員の椹木野衣は「人の生き死にをめぐる作者の思いが生々しく盛り込まれ、大きさがあり、切迫したものを感じる。太郎が触発されたメキシコの巨大壁画のような時に厚みがあり、色彩も生命力に溢れている。危険な力作だ」、山下裕二は「等身大の表現であるがゆえの圧倒的な強度がある」と高く評価した。

・岡本敏子賞は折原智江≪ミス煎餅≫
  煎餅でできた墓《ミス煎餅》で岡本敏子賞を受賞した折原智江は1991年埼玉県生まれ。2015年に多摩美術大学美術学部工芸学科陶専攻を卒業後、現在は東京芸術大学大学院美術研究科先端表現専攻に在籍中。実家と親戚が煎餅屋で、「死ぬまでついてくるバックグラウンドやアイデンティティを見直し、形にした」という。自らの生前墓で、自分の顔を模した骨壺が供えられている。構造体にうるち米を蒸した生地を貼り付けて、ヒートガンで焼いて制作した。
  審査員の和多利浩一は、「作家としてやっていくという姿勢にグッときた。今後の作品を凝視したい」と評価した。

・特別賞は笹岡由梨子《Atem》
  特別賞を受賞した笹岡由梨子は1988年大阪府生まれ。2014年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士油画専攻修了、現在は同大学院博士課程メディア・アート専攻に在籍。受賞作の《Atem》は老いに対する恐怖心や実年齢と主観的な精神年齢とのズレからくる軋轢に着想を得たビデオ・インスタレーション。操り人形と作者自身の増殖した顔の組みあわせによる映像を中央に配している。作品に掲げられた「いきおう」という言葉は、「息」「生気」「霊魂」を意味するドイツ語の宗教用語で作品タイトルの《Atem》を自ら「無理やり日本語訳した」。
  審査員の山下裕二は「周到に作られたインスタレーションで作者の力量を強く感じた」と評価した。

  なお、応募総数が昨年の672点から187点少なくなったことに対し、山下裕二が講評の中で、「数は減ったが、一番上の方のレベルは下がっていない。全体としては非常に面白い展覧会になっていると思う」と話した。
  入選作家はほかに井田大介、岩村遠・鹿毛倫太郎・古賀睦、楷の会 林楷人、川久保ジョイ、國本翼、関川耕嗣、TEAM WARERA、辻元百合子、坪井康宏、二藤建人、花沢忍、原田武、本郷芳哉、松下敦子、三角瞳、村上佳苗、村上慧、森本孝、横山奈美、六無。
  受賞作を含む入選作23点による「第19回岡本太郎現代芸術賞展」が4月10日まで、川崎市岡本太郎美術館で開かれている。

執筆:西澤美子(文中・敬称略)

第19回岡本太郎現代芸術賞展
2月3日(水)~4月10日(日)※月曜休館
川崎市岡本太郎美術館(神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5)
☎044-900-9898
9時30分~17時
一般600円、高大生・65歳以上400円、中学生以下無料
詳細:http://www.taromuseum.jp/

写真キャプション
①  岡本太郎賞の三宅感と受賞作《青空があるでしょう》
②  岡本敏子賞の折原智江と受賞作《ミス煎餅》
③  特別賞の笹岡由梨子と受賞作《Atem》


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