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アートニュース 第27回 五島記念文化賞美術新人賞に川村亘平さん(影絵)、東影智裕さん(彫刻)

  美術とオペラの分野で活動する優れた人材を発掘し、一年間の海外研修や、帰国後の成果発表で助成を行う五島記念文化賞(主催:公益財団法人 五島記念文化財団)の平成28年度、第27回の受賞者が決まり、美術新人賞に影絵の川村亘平さんと、彫刻の東影智裕さんが選ばれた。
  4月14日に東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急で贈呈式が行われ、五島記念文化財団の上條清文理事長から賞状と賞金50万円、副賞の1年間の海外研修費400万円の目録が授与された。

  川村亘平さんは1980年東京都生まれ。2003年亜細亜大学国際関係学部卒業、同年インドネシア共和国のバリ島に音楽留学。2014年の山形ビエンナーレでの「地蔵について」や昨年の福島県福島市での南相馬影絵「ヘビワヘビワ」など、日本各地の土地に残る物語を影絵作品としてワークショップや取材を通して再生し、現代日本と伝統的な感性をつなぐ新たな芸能を発信し続けてきた。贈呈式での講評で、美術部門選考委員長で世田谷美術館館長の酒井忠康さんが、「今回は毛色が変わったというと怒られるかもしれないが、面白い経歴をふまえて美術の世界に飛び込んできた大変ユニークな人を選んだ」と述べた通り、川村さんは、「アカデミックな美術教育には興味が持てず、一般の大学に行った。その後、バリの芸術家たちに会った時に、ものすごい人たちがいっぱいいることに驚いた。そうした村の長老に習いに行くかたちで勉強し、学んだものを自分のフィルターを通してアウトプットしていった」という。
  また、酒井さんは、推薦委員の一人で東北芸術工科大学の宮本武典准教授が現代美術のアートシーンでは東南アジアのアートやアーティストに関するものが極端に少ないことをふまえ、「国境を越え、伝統芸術の枠を越え、土地の物語を呼び覚ます地異に根ざしたアートの手法を積極的に現代美術に反映させたい」との思いで川村さんを推したことを紹介した。
  贈呈式後の祝賀パーティーで川村さんは、「これまでの自分の影絵のパフォーマンスに出て来るキャラクターや象徴的なモチーフを即興で表現した」という影絵を歌とともに披露した。歌も即興で、インドネシア語かと思わせる言葉もすべて創作だという。
  川村さんは、今年11月からインドネシアのバリ島を拠点に研修を行い、バリ島の伝統影絵「WAYANG KULIT」の上演、デザインの調査研究、習得を中心に、インドネシア国内に残る儀礼や伝統芸能、美術、また、そこから育まれた新しい芸術家たちとの交流を通じ、新たな影絵作品を制作する。パーティーでのスピーチでは「大学在学中にインドネシアの芸能に触れる機会があった。今回の受賞で、もう一度インドネシアに行って光と影という根源的なものに対して、じっくり取り組む機会をいただけて大変ありがたい」と述べた。また、「インドネシアは経済発展が著しく、古典芸能が失われ始めている。今は、それらを見られる限界ではないかと思っているので、いろいろな島に行き、いろいろな芸能を見つつ、同時に、ジャワなどでは新しい芸術家も育っているので、そういう人たちと何かができないかと思う」と抱負を語った。
 

  東影智裕さんは、1978年兵庫県生まれ。98年生野学園高校を卒業後、武蔵野美術学園で学んだ。2012年第7回タグボートアワードでグランプリを、13年第8回同審査員特別賞を、14年第3回あさごアートコンペティションでスポンサー賞を受賞している。
  動物の頭部を毛並みまで細密に表現した作品を主に発表してきた。祝賀パーティーでは、自らの作品を手にしながら、「動物の頭部をメーンに作品を作っているが、動物そのものというよりは、人の心であったり、時間の流れであったり、記憶、生と死のようなものを表現したいと考えている」と述べた。また、贈呈式会場の外のロビーには、流木にウサギの頭部が乗った作品「侵食Ⅳ」を展示。「流木はもともと根を生やしていた木が死んでいる状態。そこに生きているかのような動物を融合させて新しい形にしたかった」と話した。
  講評では酒井さんが、東影さんを推薦した姫路市立美術館副館長の不動美里さんが「異形の世界への通路が、彼の仕事を通してある何かの可能性として広がったのではないか」と評価していることを発表。また、同様の理由で、神奈川県立近代美術館学芸主任の李美那さんも東影さんを推薦したと話した。
  東影さんは、2017年3月から、ポーランドのクラクフ、ワルシャワを拠点に研修を開始する。戦争、体制など大きな変化を経たポーランドの文化、芸術、宗教観に触れ、自分自身に備わった日本固有の死生観、および環境の変化、影響を客観的に捉えるため、制作と考察を行う。また、中東欧、近隣諸国へも出向き、見聞を広める。「ポーランドの作家タデウシュ・カントルの死生観にすごく興味を持ち、カントルを生み出したポーランドの文化や歴史に触れて、自分自身の作品をもう少し深い部分から追求したい」という。兵庫県の故郷の町では、葬式の際には家族や親戚が集まり遺体とともに24時間過ごすなど、死が身近な存在であることから、「生まれ育った環境はすごく大事で、制作に大きく影響していることを感じる。作家は作品を環境に作らされていると思うようになり、なぜ生と死をテーマにするのかなどを自分の中に踏み込んで考えてみたい」という。
 

  美術部門の顕彰、助成の対象者は40歳以下で日本国籍の美術制作家。選考は、12人の推薦委員が推した9名の候補者の中から、選考委員長の酒井忠康さんをはじめ、多摩美術大学教授の海老塚耕一さん、武蔵野美術大学教授の柏木博さん、美術評論家の宝木範義さん、東京芸術大学教授のたほりつこさん、元東京国立近代美術館副館長の松本透さん、京都国立近代美術館館長の柳原正樹さんら7人の選考委員により、作家による作品のプレゼンテーションと面接をもとに選考が行われ、満場一致で決定したという。
  なお、海外研修終了後3年以内の成果発表に対して350万円の助成が行われる。

執筆:西澤美子

写真キャプション
①上條理事長から賞状を受ける川村さん
②上條理事長から賞状を受ける東影さん
③前列左から美術新人賞の川村亘平さん、東影智裕さん、オペラ新人賞の高橋さやかさん、髙橋維さん。後列左から美術部門選考委員長の酒井忠康さん、五島記念文化財団理事長の上條清文さん、オペラ部門選考委員長の栗林義信さん
④川村亘平さん
⑤祝賀パーティーで披露された川村さんの影絵
⑥東影智裕さん
⑦東影智裕さんの「侵食Ⅳ」2015年 動物の頭部はエポキシパテという樹脂で制作している


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